運命の花冠は澱の底で彼女を待っている

だからなおのこと、自分に何が起きたのかうまく理解ができなくて。最初はとうとう死んだのかなあとさえ思いました。でも死んだわけじゃなさそうです。だって、死んだのかな?と思える心があったのですから。

それに目を開けると真っ暗ではありましたが何か群衆の影が見えました。昔何かの映画で見たことがあるような、水槽の中にいるような光景に息をのみます。海の中にいるのになぜか息が苦しくありませんでした。旋回する魚の群衆の列を乱すように私は海の底へ沈んでいきます。すると、魚と魚の隙間が光っていることに気が付きました。海の中に憑きでもあるようなそんなほのかな光に私は目を凝らします。だんだんと、魚の群れが引いていくにつれて、その光の全貌は明らかになっていきました。

白い塔。

チョウチンアンコウでも潜水艦でも、ましてや幽霊船や海底火山でもなく塔がありました。あまりにも海の底の中にあるものとはミスマッチなそれに私は首をかしげたくなりました。人魚でもいるのでしょうか。でも、人魚なんて素敵な生き物がいるような建物はもっと王国みたいな、お城みたいな形をしているはずです。この塔はそれにしてはあまりにも殺風景な姿をしています。

ひとつ奇抜なことがあるとすれば、白い塔を飾る大きな花冠がある、ということでしょうか。海の中の花というミスマッチさにいかにも夢らしさを感じながら、私は沈む方向を何とか塔に合わせます。なんとなくあそこに行かないとこの夢は終わらないような気がしてなりませんでした。

だんだん近づいてくる等の白さに目を焼かれそうになりながら、私はふいにあの花の名前を知っているような既視感にとらわれます。あれ、そう、確か花言葉は、「運命を開く」--だったでしょうか。でもどこでそれを知ったのかまではどうしても思い出せませんでした。

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