書道部は帰りが遅いので後を尾けやすい

松嶋沙耶という女はストーカーの典型だった。小学校の頃にはすでにそうだったというのだから救いようのない。なるべくしてストーカーになったようなそういう女だった。これで容姿が人並以下だったら最悪というものだろう。

寂兎智尋という男もよく犯罪として被害届を出さないものだ。いや、気が付いていないから出しようがないのだろうが、にしても普通自分の家の郵便物が物色されている形跡があったり、修学旅行先の押し入れから物音がしたら気づくものではないだろうか。いやはや、人間とはかくも不思議なものである。

さて今日も松嶋沙耶はその恋心がゆえに寂兎智尋の後を尾けている。時刻はもうすぐ七時というところ。書道部は帰りが遅いため後をとても尾けやすい。放課後から彼が帰宅する時間になるまでの間を、書道部の窓が確認できる図書室で過ごすことは松嶋沙耶にとってはさすがに苦痛だったが、それでも中学時代の目立つストーキングよりは格段と楽になったという。労力を惜しまず好きな人の背中だけを見つめる日々に苦痛はないのだろうか。「好き」の一言だけでここまでするとは、いやはや、純愛とは何ぞと問いかけたくなるものである。

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