そんなものは些末な問題にすぎないのだ

なぁんだなんてその瞬間安堵してしまった私は、正気の沙汰ではないのでしょう。

でもしあわせな夢だと思ったのです。

だっていつも学校で会っていた彼には「好き」という言葉どころか「おはよう」も「さよなら」も言えなかったのですから。だから耳がないと知ってうれしかったのです。だって、聞こえないのなら安心して声をかけられるのですから。

気が付かないうちに浮かび上がってきたのか、前からあったのかは分かりませんが、塔と同じ色をしたテーブルと椅子に気が付いて、私は椅子に腰かけながら後ろを向き続ける寂兎くんの姿に微笑みます。全然違う姿ですが、体格は確かに私の知っている寂兎くんそのもののように思いました。ドレスのバックフリルを揺らしながら、宙を泳ぐ魚を見つめたり、白い壁だけを見つめるお人形さんみたいな姿に惹かれながら、私は聞こえないからいいやという安心一つで「そういうせきとくんもすごくすき」なんてうっとりしながら吐きました。

嘘吐きな僕ら

Prism以外の話

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